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私のたわごと・・・ その92 ('04.8.18)
タクシーに乗ると、よく運転手に声を掛けられる。 大体聞かれるのは、「あなた、日本人?」とか、「何年、バンコクにいるの?」とか、たわいも無い話ばかりなのであるが、私は大体いつも逆に「あなたはどこの県出身の人?」と聞く。
タクシーの運転手はほぼ100%に近い状態でバンコク出身者では無い気が私はする。 しかも私の超個人的な統計上では90%以上がイサーン(東北)地方出身者。
今宵の運転手も、やはりご多分に漏れずローイエット県(イサーン地方)出身であった。
「何でイサーンの人が多いの?」とちょっと失礼ながら聞いてみた。
「イサーンはバンコクへの出稼ぎが当たり前の所だから。特にローイエット県は。」との事。何故ローイエット県なのかを再び問うと、「ローイエットはイサーンの中でも特に農作すらしづらい場所だから。 稲作は一毛作だし、雨季には、雨が多すぎて洪水になるし… ほら、イサーンでも二毛作できる所は、そこまで貧しくないでしょう。 バンコクのタクシー運転手の80%はローイエットの人間のはずだよ!!」 との事。
さすがに最後の『80%はローイエット県出身者』は特有の誇張表現の気がするが、言っていることは満更でもない。
なるほど、タイはバンコクだけを見ればかなり発展してきたようにも見えるが、結局、裏を返せば地方出身者の努力の賜物でもあるという訳か。 一昔の日本と全く一緒のような気もする。
そして翌日のタクシー運転手は… またまた、「ローイエット県」出身であった。
やっぱり『80%ローイエット』の話は満更でないのであろうか…?
この男、頬に傷があり、ちょっと乗った瞬間びびったが、その割には感じのよさそうなオッちゃんだったので、そのまま乗車して帰宅することにした。 そして、、、またご多分にもれず「日本人か?」と質問が来た。
「そうだよ」と答えると、今日のオッちゃんからは「大阪か、名古屋か、東京か、福岡か…?」とすらすらと日本の地名が出てきた。 なかなかここまで日本の地名を知っているタイ人のタクシー運転手は、地理おたくでもない限りいないはず。
「何でそんなに日本の地名知っているの?」と聞くと、「俺は日本に行ったことがあるんだ」と返ってきた。
驚いた。 言っちゃ正直悪いが、タクシー運転手をしているタイ人で海外旅行、しかも日本に行った事があるというのは珍しい。日本は観光ビザを取るのも大変なのに。
ワケを聞くと、この運転手、なんと元ムエタイのボクサーであった。試合で日本に言ったそうだ。
カッコイイ!!
この運転手は20年前、ラチャダムヌンのムエタイ競技場ランキングで三位だったそうで、当時ランキング一位だった日本人の「フジワラ」という選手と大阪で対戦したそうである。 結果は負けてしまったものの、日本に行ったのは良い思い出だと私に語ってくれた。 やっぱり凄い。
ムエタイ選手は国内中に数多くいるが、その最高峰に位置するラチャダムヌンのランキングで3位だった男である。(タイにはもう一つルンピニー・ランキングもある。) そんな男が、今晩の運転手だった。
何で今運転手なのかというと、ムエタイで稼いだお金は田舎に家を建てて、このタクシー車を購入したら全て無くなってしまったそうである。「今じゃ貧乏だよ〜」と笑いながら言ってくれた。
バンコク在住30年。 ローイエット県には今でも年に数年は帰っているそうである。