タイ料理論 その1
こと食・料理に関してタイ人は、そう「マイ・ペン・ライ」とは簡単にはいかない。
独自の歴史と、大衆の日常食文化の中で育ってきたのがタイ料理である。
かくして独特の個性ある食文化を確立してきたタイ料理であるが、現実として日本では「タイ料理=エスニック料理の枠内」と捕らえている人が大多数だと思われる。
そもそも「エスニック料理」の定義とは何か?「エスニック」の定義どおり捉えて一言で言うと“民族調の料理”といった感じであろうが、それでは世界中どの地域の料理も「エスニック料理」となってしまう。 昨今の料理業界において「エスニック料理」といえば、いわゆる“第三世界”の料理を指してきた用語であることは否定できず、やはり決して“肯定的に”耳に響く用語ではない。
是非これからは、この「エスニック料理」と言う呼称を用いないように私から提案したい。
さて、タイ料理はどうしても「辛い」イメージが先行しがちであるが、「辛い」だけがタイ料理ではない。「甘い」「酸っぱい」「塩っぱい」そして「辛い」の4大風味のそれぞれがしっかりと主張されながらも上手に混ざり合っているのが「タイ料理」である。
また、タイ王国は気候的な条件により非常にたくさんの香草類に恵まれており、それらの香りと4大風味の融合こそがタイ料理の大きな特徴であり、魅力である。
また、タイ食文化の個性を語るうえでは、地理的特徴と歴史的背景は見逃せない。
タイ王国の地理を簡略に説明すると、東南アジアの地図を見ていただくと良く分かるが、北部が東西に幅広く、大きな川が流れ、南部にいくにしたがって国土幅が狭くなり、海に囲まれている。全国土面積はほぼフランスと同じ大きさを持ち、実は日本の約1.4倍もある。
15世紀の大航海時代以降から近代において、東南アジア諸国で唯一西欧列国の侵略・植民地化を許さなかったのがこのタイ王国だった。その為、料理にも独自の文化がはっきりと特徴づいたと同時に、近隣諸国とは陸続きなので、各地方ではそれぞれ隣接国の影響を受け特色のある個性的な料理が発達してきたと考えられる。
例えばタイ北部はミャンマー(ビルマ)やインドの影響を受けた料理法やスパイスを使う料理が存在し、東北部はラオスと同一の国だった歴史があるので、料理だけでなく言葉(方言)までよく似ている。
マレー半島に属する南部はバリエーション豊かな海鮮料理が存在している。また、宗教上(回教徒)の影響の強い料理も多い。そして現代のタイ社会は華僑(中国移民)の存在が欠かせない状況である為、中国大陸(特に広東・潮洲地方)の影響を多大に受けた料理がタイ国内の隅々にまで浸透しているのである。
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